伊那古町 南信濃に突如現れたみごとな看板建築群

長野県
伊那市
中央





交通
JR飯田線伊那市駅下車




伊那古町





2019.04.30

伊那市は、天竜川流域の伊那盆地北部の中心地であり工業都市である。市街地は天竜川西岸の段丘上、三州街道と金沢・権兵衛街道の交点に形成され、木工業・電気部品・精密機械工業により栄えた近代都市である。
天竜川の西側だけが伊那市の中心市街地だと思われがちだが、川の東側の高遠・茅野へと通じる金沢街道沿いにも商店街が形成されている。そこには、幅広い通りの両側に戦前の看板建築がずらりと並んでいる。看板建築は、東京の商業地を中心に関東大震災以降に流行した様式で、震災直後の建物は銅板で洋風の古典様式が用いられたものが多く、時代が下るにしたがって建物デザインがモダニズムへと変わっていくのと同様に、看板建築もモダニズム化していく。戦後になると銅板が姿を消し、装飾がなくなるとともにモルタル洗い出し等が多用されるようになる。伊那古町の看板建築群が、戦前と断定したのはそのことが根拠だが、銅板でありながらデザインはモダニズムという非常に限定されたスタイルばかりというのが面白い。また、屋根勾配が後ろへの片流れであるのも特徴で、看板の立ちが高くなる「オデコ看板」になっているのも共通した特徴である。オデコ看板は、多雪の北海道でみられるが、ここ伊那での採用はいかなる理由なのであろうか。一方、看板建築ではないが銅板で外装を不燃化している大阪スタイルの町家も混在しているところも興味深い。

伊那古町の町並み
美しく緑青を葺いた銅板外装の町家。他の建物も同様に銅板色が原型なのか。出窓や軒蛇腹の意匠が面白い。パラペットが段々になっているのは、屋根が表から後ろにかけて片流れだから。
伊那古町の町並み
装飾がなくモダニズム看板である。
伊那古町の町並み
この二軒がいわゆる関東の看板建築では見られない(皆無じゃないが)スタイル。看板建築が極端に少ない大阪に多い。

伊那古町の町並み
片流れ屋根のオデコ看板(左上)。
この家は切妻平入り(左下)。
後ろに蔵を排している家が多い(上)。
伊那古町の町並み

伊那古町の町並み
色が塗られているけど銅板である。逆に一切モルタル洗い出しがみられないのも興味深い。
参考資料 リンク
伊那市

参考文献